中根誠『秋のモテット』(角川書店)より

中根誠『秋のモテット』(角川書店)は著者の第5歌集。平成22年秋から平成30年までの作品450首が収められています。

・蠟燭の揺るる炎に寄りて食ふ春の冷たき飯の甘さよ

巻頭の連作「胴震ひ」の中の1首。東日本大震災直後の生活を詠んでいます。様々な解釈が可能な作品と思いますが、私は「冷たき飯」にリアリティーを感じました。

・終戦の日の感想をいくたびも訂正をして母はありたり

・さんまの身崩しゆくときそのいのち思ふことなしさびしこの旅

・途方もなく死が怖いといふ二十歳の娘(こ)、七十代はもつと恐いぞ

・父は七十母は二十歳となるあの世ことしの夏は涼しくあるか

・白き飯うまさうに食ふ祖父なりき息子を死なせたるのちの世を

・どこにでも君はゐるなりこの夜は助手席にゐて浅く眠れる

集中から心に残った作品を抄出していくときに感じるのは「命」を見つめる眼差しです。そして、著者が最も深く見つめるのは「家族」。歌集を通読していくと時代の中で変化していく「家族」の姿が浮き彫りになっていきます。

ひとつの「家族」の変遷を端正な文体で詠みあげている第5歌集です。






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